母の入院で、嫌いだった『NHKのど自慢』が楽しめるように。
【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十五回
■最初の頃は生理的に受け付けなかった
高校の同級生3人がウン十年ぶりに集まってキャンディーズを踊りますとか、病気のおじいちゃんのために孫が頑張って歌いますとか、あの手の『のど自慢』的なものすべてがぼくは生理的に受け付けられず、最初の頃は1秒たりとも見たくない番組だった。
まったくの推測だが、田舎が嫌いな人はのど自慢が嫌いだろうし、家族や親戚のつながりを面倒くさいと思う人も、のど自慢を見ないと思う。
でも、母は『のど自慢』が好きだった。毎週、日曜のお昼になると入院中も必ずチャンネルを合わせ、「今日のチャンピオンはこの人かねえ」なんて言いながら、楽しそうに見ていた。
そして日曜のお昼というのは、病室の風景がいつもと違う。母が入院していたのは4人部屋だったが、いつも以上にお見舞いの人たちでにぎわい、遠方から来たであろう親戚や孫の姿が、ちらほらと見られる。
病気のおばあちゃんの見舞いのために連れてこられた小さな孫と、それを喜ぶ入院患者とのほのぼのした会話。しかし、そこにはよそいきの距離感もあって、近づきたいおばあちゃんと、とまどい気味のお孫さん。時に、作られた幸せな空気を感じることもあった。